花組 バウワークショップ『殉情』
2022年11月4日14時30分公演を観てきました。
芝居巧者のはなこちゃん(一之瀬航季)主演の後半組です。
佐助の献身、春琴のツンデレが肝
原作は、谷崎潤一郎のマゾヒズム味がにじみ出てる「春琴抄」なので、高慢なお嬢様、春琴と、そのわがままにどこまでも付き合い、献身的に尽くす佐助の純愛が美しくもあり、キリキリと痛みを伴う苦しさもあり。
薬問屋のお嬢さんと奉公人、三味線の師匠と弟子、どちらも絶対的上下関係。
古今東西、身分違いの愛がテーマの作品は数多ありますが、それらは、互いに思い合って、身分の壁という障害をともに乗り越えようと、手を携えて闘う、というパターンが多いように思います。
『春琴抄』は、ツンデレ春琴と一途に敬愛し尽くす佐助という、力関係がアンバランスなカップルが描かれていて、思わず、佐助に肩入れして見てしまいます。
佐助に同情を寄せてしまう、ファン心理。
佐助も盲目になることで、春琴の見ている世界が自分にも見えた、と喜びます。
2人だけが見える 2人の世界、究極の愛に生きる佐助の覚悟に心揺さぶられます。
何度も再演されるのも頷けます。^^
芝居巧者揃いで見応えありました!
一之瀬航季(100期)佐助
『はいからさんが通る』の新公主演が決まっていたのに、コロナで流れてしまって、今回が初センター。
新公でセンターの経験がないままに、カンパニーを率いての主演は、初めてづくしで手探りだったかもしれません。
経験がないのに、学年が上がり、それなりのものを求められるのでプレッシャーも相当なものだったかもしれませんが、芝居巧者・一之瀬航季、本領発揮でした!!
堂々とした舞台姿は、安心して観ていられました。
容赦ない春琴のわがままな要求や仕打ちに耐える姿は、本気で同情してしまってキュン。
春琴からもらった羽織の入った風呂敷を胸に抱き歌う、幸せそうな佐助の姿に、心打たれました。
顔にやけどを負った春琴が、「顔を見られとうない」との言葉に「自分も目を潰す」という行為をリアルに舞台で描かれていて、想像以上に衝撃でした…ここは、はなこちゃん、難しかったと思います。
佐助も三味線を弾きたい、と物干し台で深夜一人で稽古する後ろ姿にも、勝手に哀愁を感じて…キュンキュン、後ろ姿に弱い…^^;
ひたすら耐えて、尽くす佐助、それなのに、はなこちゃんの笑顔が素敵で、余計に落差にヤラれます、
やっぱり谷崎のマゾヒズム。
美羽愛(104期)春琴
今まで観た、あわちゃん(美羽愛)のお役の中で一番良かったです for me
わがままだけど、美しい♪
薬問屋の一人娘の矜持を持って、凛としたところがある、かっこいい女性。
それは鼻持ちならないという一面も併せ持っていて、美濃屋の利太郎との軋轢を生む結果に。。。
徹頭徹尾、いかにも甘やかされて育った大店のお嬢様、という役どころを演じて見事でした。
峰果とわ(98期)美濃屋の利太郎
春琴に横恋慕する美濃屋の若旦那・利太郎を演じるゆかさんが面白すぎて!!
あっぱれです!!
舞台化粧からして、やらしさ満載のキツめの化粧。
一挙手一投足が面白いですw
途中からは、舞台に登場するだけで笑いが漏れるほど、客席の期待値もUPしてました。
それに見事に応えたゆかさん。
今日は客席に、ほんの2ヶ月前に宝塚を卒業したばかりの 仲良しの同期、飛龍つかさくんと100期の音くり寿ちゃんがいて、「冬霞の巴里」でご一緒した専科の紫門ゆりやさんもいたので頑張ってました♪
宙組の『殉情』の利太郎(演:寿つかさ)は、志村けんさんのバカ殿様のような白塗りに赤い口紅、女中のおきみとおよしも白塗りに太眉毛で、コントみたいでいただけなかったのですが、今回の竹田先生演出では、前のような笑いを取りに行く演出ではなく、自然に笑いが漏れる楽しいシーンでした。
糸月雪羽(100期)芸者・お蘭
このお役は歌上手枠。
宙組では歌上手のせーこちゃん(純矢ちとせ)と藤咲えりさんが演じていたお役。
ソロ歌唱では、透き通るような声を聴かせてくれました。
客席に、歌上手の同期、おとくりちゃん(音くり寿)が見守っていました。
おとくりちゃん退団後、どなたが代わりを務めていくのか…と思いましたが、いとちゃんもお上手なので おとくりちゃんがいなくなった穴を埋めてくれそうです。
ちょっと色っぽいお役は初めてかな? 新鮮でした^^
春琴のわがままにほとほと困っている両親役
びっく(羽立光来)とあおいさん(美風舞良)もお上手でした♪
個人的意見ですが、現代パートはせっかくの雰囲気ぶち壊し
…という思いは、今日観劇した私を含め友人5人の共通の感想です。
郷土史研究家の石橋教授と大学生のマモルとユリコが登場するのは、最初と最後だけにしてほしいです。
せっかく、あの時代の息詰まるような、佐助、春琴、利太郎と、鵙屋の使用人たちが紡ぎ出す明治の大店の雰囲気を楽しんでいる時に、
いきなり、現代パートが、ぶち切るのはやめて〜〜!と言いたいです。
石田昌也先生のお家芸かしら?
宙組の大劇場公演『モンテ・クリスト伯』でも、高校生パートを挟んでらっしゃいました。
せっかくのモンテ・クリスト伯の世界を度々ぶち切られた、と不評だったせいか
今年再演の星組の全国ツアー公演では高校生パートはなくなり、キャストが説明セリフを言う、に変更になり、「突然ぶちきられた感」がなくなってよかったです。
今回の『殉情』は、もともとの演出をされた石田昌也先生は監修で、実際の演出は竹田悠一郎先生です。
プログラムのご挨拶に石田先生は、
「竹田先生にはイシダは死んだと思い、自由にやって下さいとだけ伝えました」と書かれています。
竹田先生には、現代パートざっくりなくしていただきたかった…(私見です)
たとえ原作に「私」という現代人が登場しようとも。
石橋教授とマモル、ユリコの3人は、見せ場でもあるので、お役の少ない『殉情』では重要な位置づけなのかもしれませんが。
その上、今回、その現代パートのマモルがYou Tubeに目覚め、SNS疲れにも見舞われながらも、自分らしさを取り戻していく、という一つのサイドストーリーが描かれていて、ますます、春琴抄=殉情の世界に没頭したいのに、全く違うものをねじ込まれてる感。
気が散ります。
ただ、現代パートのお三方(紅羽真希、鏡星珠、二葉ゆゆ)は、お上手でした。
106期の鏡星珠くん、『巡礼の年』の新人公演で2番手・水美舞斗のショパン役に大抜擢。
今回の演技でも、なるほど〜の演技力でした。
気がつけば、花組も層が厚いですね♪
25人という少人数で作る今公演、エッセンスを抽出したような、キャストの魅力がギュッと詰まった濃い公演になってました。
出演者の熱意の結晶、期待以上に素晴らしい公演でした。
出演者の皆さんも、その手応えを実感されているのではないでしょうか^^